某月某日、旧友たち数人で居酒屋に足を向けた。
少々肌寒さを感じたことから、いつものビールをやめ燗(酒)でやることにした。
〃お酒を燗(酒)で3本、つまみは後で〟
と学生アルバイトと思しき女店員に注文。
〃はい熱燗(酒)ですね〟
と少々間があってお酒が運ばれてきた。ホット一息、久方ぶりの再会に話しも弾む。
早いピッチで、
〃お酒お替り3本〟
と再度の注文。届いたお酒の燗具合は、やや温めであった。
早速、
〃熱燗(酒)って何度ぐらいなの?〟
と少々意地悪な質問をしてみた。驚いた顔で
〃すみません店長に聞いててきます〟
との返事。このパターンは、ほとんどの居酒屋で押しなべての出来事であった。
また別の日の事である。
〃お酒を冷や(酒)で3本〟
と注文したところ、
〃はい常温(酒)ですね〟
との返事。
古希もとうに過ぎ偏屈おじじを自認する私にとってこの言葉(常温)は、なんともこそばゆくなじめない呼称である。
その昔を辿れば、お酒は燗か冷やの二つの区分のみで事足りたのである。昨今は燗(酒)、冷や(酒)の外、常温(酒)(?)や冷酒・冷用酒などの呼称の酒もあり全くもつて紛らわしいことしきりである。
ところで私は、その昔公務員として新潟に数年間勤務していたことがある。
新潟県は地酒ブームの発祥地(?)とも言える清酒(日本酒)の一大産地であり、中でも一定基準を満たしているものに認められた「特定名称酒=吟醸酒、純米酒等」の割合をみると、2013年度で63.8%と全国平均(28.6%)を大きく上回っている(県経済リサーチセンター月報)。他の都道府県と比べても、突出した付加価値の高い清酒(日本酒)の生産地である。
また当時〈平成16年頃〉の新潟県全体の酒造場の数は、108場(現在98場)(県経済リサーチセンター月報)と全国の都道府県の中で最も多く奇しくも煩悩を取り去る除夜の鐘と全く同数でなかなかの賑わいであった。
さて本題のお酒の温度であるが、県酒造組合員の伊藤酒造・伊藤哲夫氏は次のように分類されている。
55度 : 飛びっきり燗
50度 : 熱燗
45度 : 上燗
40度 : ぬる燗
35度 : 人肌燗
30度 : 日向燗
諸説ある中で、最も分かり易く頷くことのできる区分ではなかろうか。
一方、冷や(酒)や燗(酒)は、辞書(岩波国語辞典)によれば次のように記されている。
冷や(酒): 燗しない酒
燗 (酒): 燗をした酒、温かい酒
熱燗(酒): 酒の燗がひどく熱い事
ところで、この冷や(酒)については、部屋と同じ程度の温度(常温)の酒と記述された文献も散見される。
なお、冷酒や冷用酒については、冷や(酒)と混同しがちであるが、これらは近代的な呼称で、冷蔵庫で冷やしたもの又は燗をせず冷やして飲むように造った清酒(日本酒)を言う。
さらには冷酒を細分化し、
みぞれ酒〈0℃〉
雪冷え酒(5℃))
花冷え酒〈10℃〉
涼冷え酒〈15℃〉などと、もはや趣味の域の区分もある。
ご同業の皆様方、酒についてのうんちくを酒菜に今宵も一献、愉しい一夜を友と語り明かそうではありませんか。
2017年8月4日
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